「私の事、どうするつもり?」

『そ、れは…』

「まぁ、今更だけど」


答えなんか、もう出てるじゃないか。

この人は、優柔不断でどこまでも優しい人。
そこに惹かれたけど、そこが弱点。

奥様もお子さんも捨てて、私の手元に落ちてくるわけなんかない。
というか…。


そんな奴、こっちから願い下げだわ。


自分と奥様の立場を逆転させて考えなくとも、そう結論つくだろう、誰でも。


どこの世界に。


既に自分以上の『幸せ』を手にしている人へと、変わらず愛情を捧げられるものか。


…虚しい。


辛い。

辛い…?


何それ、意味が分からない。


ズキズキ、ズキズキ。


鼓動にさえもこの痛みが刺し込んで、今にも破裂しそうだ。


『春花…頼むよ。せめて逢って話がしたい』

「無理。今逢ったら…私衛のこと殺しちゃうかもよ?」

『…っ』

「ばかね。そんな事するわけないのに」

『春花…』

「裏切った代償は、大きい。衛はそれをまるで分かってない。子供じゃないんだから、しっかりしなよ」

『さく、ら』

「……なに?」

『愛してる、んだ』


ズキズキ。


何度も何度も、この人は…私の鼓動をいとも簡単に切り裂く。


「私は、…愛してなんかない」


その証に一度も貴方へと愛を囁いた事なんてないでしょう?


本当は、愛してる、愛してる、愛してるんだ。


誰よりも…世界でただ一人の貴方を。

なのに。


「サヨナラだよ、衛」

『ま、待ってくれ』

「待たない…もう、待てない」



奥歯をぐっと食い縛る。
不思議とそこに痛みは感じない。

それよりも、胸の奥が痛くて痛くて仕方がない。


だから、私は最後の切り札を投げ付ける。



「じゃあ…衛は、奥様やお子さんのことどうするの?」

『………』

「即答できないでしょう?ね?それが答え…だから。サヨナラだよ」


彼の心は揺れている。
それは、十分に感じられる。


神様、これが私に与えられた【本当の愛】ならば…。

私な貴方を心の底から憎んでも罰は当たらないはず。


ねぇ、そうでしょう?