イノセント*ハレーション

どれくらいあたしは突っ伏していたのだろう。

まだ半分眠っている意識の片隅で声が聞こえる気がする。


「...い。おーい、凪夏ちゃん」

「...ん?」


ゆっくりと瞼を開けると、そこには美しく整った顔に万人に幸せを与えてくれるような笑みを称えた王子様の姿があった。

あたしは目を擦りながら頭を起こし、のけ反ってぐーんと伸びをした。

周りには誰もいない。

でもそろそろお昼だから戻ってくるだろう。

それまで2人ってことか。

どうしてこんな状況になってしまったのかわからないけど、あと10分くらい退屈しのぎに話し相手になってあげるとするか。

あたしは王子様に見られていようがお構い無しに、変な体勢で寝ていたせいで首も肩もガチガチになっていたから、首をぐるぐる回してみた。

そんなあたしを見て王子様...湧水くんはふふっと笑った。


「なんですか?」

「君は着飾ったりしないんだね。ほら、女の子って好きな男子がいるとメイクばっちり決めたり、髪の毛巻いてみたりするじゃん。でも君はスッピンにちょんまげと来ている。どうしてそんなにありのままでいられるのか不思議なんだ」


あたしは、ははっと軽く笑ってみせた。

考えたこともないことを尋ねられても答えようがない。

沈黙を貫こうかとも思ったけど、時計のカチカチという音が急かすから、あたしは仕方なく口を開いた。


「あたしはあたしだから。それが答え」

「え?」


あたしの抽象的過ぎる答えに湧水くんはぽかんとしてしまった。


「運動して汗流すっていうのにメイクしてくるなんて、メイクに費やす時間が無駄。あ、でも普段はあたしも軽くはしてる。じゃないと、変に目立つし。
でも、メイク頑張る女子を悪く言うつもりはない。そういう人はそういう人なりに、好きな人に振り向いてもらいたいっていう一心で努力してるんだから。
あたしにはそういう人もいなければ、そういう情熱もない。
だから、そんな頑張れる女子をちょっと尊敬してる」

「へ~。凪夏ちゃんでもそういうこと思うんだ。ほら、もっと冷めてるイメージだったから」

「だろうね。あたしも最近だよ。こんな風に思うようになったのは」


変えられちゃったんだ。

色んな人の

色んな感情で。

人間はそんな簡単に変えられないなんて思っていたあたしを、変えてしまう人達がいたんだ。