イノセント*ハレーション

あたしの出番はない。

あたしはどちらの組にも誘われはしたけど、観覧車の閉塞感が苦手ってことにして下で待っていることにした。

青の39番に鶴乃さんと朝登くん、

黄色の40番に日葵と弓木くんが乗っている。

まだ下の方にいるうちは皆が手を振っているのが見えていたからあたしも振り返していたけれど、だんだんと姿が小さくなっていき、あたしの腕も4人分振り返す力が無くなってきたから下ろした。

そして、白い雲が悠々と空を泳ぐ様子を見ながらあの日のことを思い出す。

小学4年生だったあたしの姿が、まるでそこにいるかのように目の前に現れる。

あたしはポニーテールを揺らし、自分よりも5センチほど小さい三つ編みの女の子の手を握って前を歩く。


ーー 一緒に観覧車に乗ろう。

ーーうん。ありがと、凪ちゃん。


あたしたちは観覧車に2人で乗った。

高いところがあんまり得意じゃないんだと言っていたあの子だったけれど、あたしが大丈夫だよと何度も念じていたからか徐々に慣れてきたようだった。

あたしが手を握ったまま、窓の外を見るように促すと、その子も恐る恐る窓ガラスに顔を近づける。


ーーわぁ、小さい...。

ーーこの景色を見ると、世界は広いんだって痛感する。
あたしの悩みなんか、ちっぽけだって思える。


あたしはその子の横顔を見る。

いつも何かに怯えるように教室の隅で小さくなっているのに、今この瞬間は水彩画のように優しくて鮮やかな色を呈した表情だ。


あたしがこの道を選んだ。

あたしが乗りたいから乗った。

あたしが友達になりたいから...なった。

だから、あたしは...

後悔なんてしない。

2人の世界に色が灯り始めたその時、

あたしは口を開いた。


ーー絆奈(はんな)の笑顔はあたしが守るよ。


あたしのその言葉に絆奈は"ありがとう"と屈託のない笑顔で応えてくれた。

あたしのことを凪ちゃんと呼び、

あたしの初めての親友だったあの子は...

絆奈は...

もう2度と

あたしに笑いかけることはない。