イノセント*ハレーション

結局、1時間あった待ち時間は、話せる人が話し、聴ける人が必死に聴き、時にあっち向いてホイをしながらやり過ごした。

そして、いよいよ乗車の時。

5人なので毎回1人が余ることになるが、その余りはきっとあたしの役目だ。


「どう乗る?」と日葵に聞かれる前にあたしは他人との相乗りに立候補した。

このチャンスもらったと言わんばかりに朝登くんが鶴乃さんを誘って上手い具合にカップリングされた。

今日のあたしはそれぞれの恋路を見守るキューピッド。

初々しい2組を後ろからじっくり見ていてやろう。

と、予定通りのシチュエーションに運べた自分を多少は褒めてあげようと思いながら、乗車の準備をしていた時だった。

急に視界に光が差し込んできた。

何事かと焦る必要はない。

キャップが盗られただけ。

あたしは自分より頭1つ分も大きな彼のさらに上方にあるキャップを見つめた。


「あたしの命、返して」


彼は涼しい顔をしてキャップをくるくる回す。

命を弄ぶな。


「毎回言ってる。返さなかったら...」

「殺す。ったく、そんなことばっか言って、可愛げがねーな、雨谷は」


可愛げなどという言葉はあたしには不要でしかない。

可愛げがあったら、

可愛げがあれば、

運命は変わったのだろうか。

本当は心臓が飛び出そうなくらい緊張していて、

小4の遠足でのリバース以来ジェットコースターに乗っていなくて今にも昇天しそう...なんて言ったら

(言わないけど、そもそもそんなこと思わないけど)

誰かがあたしの隣に率先して乗ってくれただろうか。