「生粋の雨女って言ってたっけ?」

「うん。生粋の雨女は大事な日にも雨を降らせちゃう。そんなやつだよ、あたしは。だから、変に期待しちゃダメだから」

「期待なんてしてない。もう十分。凪夏は凪夏のままでいい。いや...凪夏のままがいいんだ」

「何それ?カッコつけるな」

「つけてない」

「いや、つけてる」


何度か言葉を交わした後、あたしと彼の視線は交わった。

言うなら、今。

言いたいこと、ちゃんと言おう。

あたしは口を開いた。


「誕生日おめでとう...澪夜」


カタッと地面に力なく傘が倒れた。

あたしの唇に熱が宿る。

全身が微熱を帯び、ふわふわと羽が生えたような錯覚に陥る。

目を閉じ雨のように降り注がれる熱を感じながら、あたしは泣いた。

雨に紛れた涙は頬を伝って地面に染み込んでいく。

やがて、熱が離れてあたしは口をへの字に曲げながら言った。


「雨のファーストキスって...何?」

「今日は俺の誕生日。したいようにさせてもらう」

「...あっそ」


そうツンと拗ね、先を行くと、傘があたし達の間に入った。

歩幅を合わせて彼は歩いてくれる。


「帰ろう、一緒に」

「...うん。いいよ」


ビニール傘の下、2人だけの透明な世界はカメラに映したらどうなるのだろう。

きっと、そこにはあたし達だけの眩しい光が映っている。


"イノセントハレーション"


2人の光をそう名付けたい。