あたしは右手を拳にして、彼の脇腹あたりをとんっと叩いた。


「...バカ。バカ、バカ。バカ......なんで...なんであたし...」

「雨谷は雨谷だから。俺はどんな雨谷も大好...」

「それ以上、言うな。あたしが...まだ言ってないうちに、言う...な」


ごめん、と彼が呟いてあたしを離すと、月の光で出来た影が視界に映った。

近づくことも遠ざかることもないと思っていた17センチ。

それを今...飛び越えてもいいだろうか。

きっと...いい。

ううん、絶対、いいんだ。

わがままでも、

自己中でも、

あたしの生きたいように生きた結果が導いた最高の答えならば、

全速力で飛び込もう。


「あたし、雨谷凪夏は...」


1歩、2歩、2.5歩近づいて、

小刻みに震える唇を開け、放った。


「弓木澪夜が...大好きです」


瞳から音もなく流れ星が流れ、

あたしの頬に天の川を作った。

きっとそのキョリを越えて出会い、今...1つになれたんだ。

あたし達は宵月の下、固く抱擁し、永久に消えない川を渡った。

あたしが産まれた日、

あたしの最愛が

この胸に溢れた。