「花火の最中、彼がやって来る」


まるで風に乗ってやって来て、あたしの耳元をすり抜けるように、その言葉は鼓膜を震わせた。

プルルルルとブーブーというマナーモードの着信音が同時に聞こえる。

ピッという音と共にブーブーという音が消え、その数秒後にプルルルルも消えた。

あたしのスマホの画面に不法侵入した長い人差し指の持ち主を、あたしは知っている。

ゆっくりと顔を上げると、そこには待ち望んだ奇跡が在った。


「キミだったんだね。あたしの日記帳を盗んだのは」

「そう。俺が犯人。今までずっと黙ってて悪かった。...ごめん」

「別に謝ってほしいとは思ってない。でもさ、どうして来たの?」

「日記帳の"彼"が俺だと思ったから」

「自意識過剰。それはあたしの未来のカレシのこと。まだ会ったこともない誰か」

「そう言われても...俺は俺だと思いたい。だって、俺は...」


あたしの視線と彼の視線が交わる。

ぐにゃぐにゃと蛇行して放物線を描いて...交わった。

あたしの胸がドクンとしたのを合図に彼の言葉は駆け出した。