イノセント*ハレーション

「雨谷」


彼の声が頭上から、彼の大きな足は視界にある。

爪先と爪先が触れそうな距離にある。

あたしがくいっと自分側にかかとを寄せるのとほぼ同時にきゅっという音が聞こえた。

よいしょという爺臭い声の後、あたしの鼓動は複雑なビートを刻み始めた。

あたしの目の前には彼がいた。


「構ってほしいって思ってこんな態度取ってる訳じゃないから。説得されてもあたしは行かない。そもそも洗濯機見張ってなきゃならないし。日葵にはごめんって言っといて。ってことで、はい。こっから出てって」

「そんなに1人でいたいのに、なんで鍵開けたんだ?」

「日葵にごめんって伝えてもらうため。君こそ何でそんなあたしに構うの?理由聞いたんだから帰ってよ。日葵のとこ行けばいいじゃん」

「雨谷さ...何かあった?」

「ありすぎてキャパオーバーだって言っても、溢れた分君は吸い込めないでしょ?」

「吸い込む...ことはしない。俺は分け合う。今まで雨谷に助けてもらったから、今は俺の番だと思う」


あたしの言葉に彼は屈したりしなかった。

帰るどころか、踏み込もうとしている。

あたしは思ったことをそのまま口にするしかなかった。