イノセント*ハレーション

あたしは色んな感情を抱いて、覚悟を決めてステージの真ん中に立った。

そして、踊った。

無我夢中で手足を動かし、前後左右に動き回っていたから、記憶なんてない。

気がついたら、最後の決めポーズをしていた。


「はぁはぁはぁ...」


音楽が止まった瞬間、あたしの呼吸は乱れに乱れ、鼓膜を激しく震わせた。

拍手よりも大きく聞こえてくるあたしの呼吸。

こんなにも苦しいのに、

こんなにも美味しい空気は、

久しぶりだった。


ステージからはけ、教室の後ろの方の準備スペースへと戻ると、次に踊る男子Aチームがいた。

日葵の所属する演劇部から借りたという、キラキラのスパンコールが散りばめられた星屑のような衣装が似合い過ぎてさらに呼吸が乱れる。

そんなあたしには構わず、彼は話し掛けてくる。


「雨谷にあんな才能あったなんて知らなかった。衣装もダンスもばっちりだった」

「君、視力悪すぎ。どこをどう見ればそんな...」

「俺の目には雨谷がすごく生き生きしてて誰よりも輝いて見えた。あの雨谷も雨谷なんだなって、新鮮で、でも雨谷らしさもあって...最高だったと思う」

「僕もそう思うよ」


2人にも褒められたら、なんか...どんな顔したらいいか分かんない。

ほんと、困るよ。

もっと下手くそに踊れば良かった...。

あぁ、苦しい...。


「それより、2人共ミスしないように頑張ってよ。2人のファンいっぱい来てんだから。なんなら、この際アイドル目指しちゃえば?」

「いや、それはない」

「僕は生憎芸能界には魅力を感じないんだよね。学校のプリンスくらいで丁度良い」

「はは。そうですか」


あたしはそんな他愛ないやり取りをして2人を送り出した。

皆の笑顔のためならなんでもしてしまう優しい王子様はあたしと同じポジションで完璧な舞を見せ、

キャラじゃないのに踊らされている彼も、演じているのかこれが本当の姿なのか、判別はつかないけど、とにかく一生懸命に踊っていた。

それぞれがそれぞれの役割を精一杯こなし、一人一人が夜空に浮かぶ星のように輝いた文化祭は、名残惜しくも幕を閉じた。