イノセント*ハレーション

「もし答えたくないならいいんだけど」


答えたくないならいい、なんて言われたらむしろ答えるしかなくなる。

そもそも、あたしに答えないという選択肢はない。

逃れられないと分かったら、どんなことでも答える。

そう腹をくくってる。

あたしってそういう人なんだ。

鶴乃ちゃんは遠慮がちに続けた。


「凪夏ちゃんの家族構成とかって、どう...なの?ほら、今まで私も聞かなかったし、凪夏ちゃんも話さなかったから分かんなかったけど...もし教えてくれるなら、知りたいなぁと思って」


あたしは至って冷静にいつもの口調で話した。


「あたしの家族は母と祖母。
母はあたしが小2の時に離婚して、それからは祖母と団地暮らし。

母はトラックの運転手で全国各地走り回ってるから、ほとんど会ってない。1ヶ月のうち3日会えば多い方。なんなら、1日として会わない月もある。

あたしのために一生懸命働いてくれてるから、あたしも自分のお小遣いくらいは自分で稼ごうと思ってバイトしてる」

「凪夏ちゃんってすごく偉いんだね。家事全般もやってるって言ってたよね?ほんと、尊敬しちゃう」

「あたしを尊敬しても、面接では言えないけどね」

「ふふ、確かに...」


鶴乃ちゃんが笑ってくれたお陰で、あたしの心は救われた。

家族のことを話すのは一体いつぶりだろう。

そのくらい自分の身内のことについて話すのを躊躇っていたのは、紛れもない事実だ。

事実を知られるのが嫌だった訳ではない。

事実を知って可哀想だと同情されるのが嫌だった。

辛い気持ちを共有して相手が自分のことのように傷付くのが怖かった。

だから今まで黙っていた。

けど、今話せたのは、きっと大人びていて寛大な心を持っている鶴乃ちゃんだったからだと思う。

この場にいたのが鶴乃ちゃんで本当に良かった。