イノセント*ハレーション

ーーパコンっ!


「ゲームセットーーー!」


昨日より一段とパワフルになった古森先生のハスキーボイスが耳に届き、あたしは思わず水筒を落としてしまった。


ーーカラン...。


残りわずかだった梅ジュースが乾いた地面に潤いをもたらす。

会場が一気に歓声に包まれる。


「凪夏ちゃんっ!やったね!日葵と澪夜くん、優勝だよっ!」

「あ、うん。やったね。はは」


鶴乃さんがあたしに抱きついて笑いながら泣き出し、あたしは鶴乃さんの頭をぽんぽんしてあげた。

悲しい時泣けないのだから、あたしは嬉しかったらなおさら泣けない。

あたしには難易度が高過ぎだ。

そんな冷めたあたしに対して湧水くんは鶴乃さんをこっちに寄越せと訴えるような鋭い眼差しでこちらを睨んでくる。

戸塚くんは泣いていてそれどころではない。

周りから見れば1番冷静そうなあたしが、実は1番困惑してると誰が思うだろう。

あたしの胸には色んな感情がごちゃ混ぜになったマーブル状の渦が起こり、おおしけの海のように荒れに荒れ、どこにも漕げ出せずにいる。

ただ、胸がバクバクして、

それが喜怒哀楽のどれなのか分からなくて、

名前を探しても見つからなくて

難破した。

乾いた地面に雨が降るように一気に注がれた感情は簡単には染み込んでいかなくて、溢れてしまった。

あたしは、ただ、ただ、ただ、時が立つのを待っていた。

時間が解決してくれるのを、

真夏より少しばかり心地よく感じられるようになった風がさらってくれるのを、

待って待って、待っていた。