「我々もサザール平原で迎え撃ちますか?」

キールからの問いかけにラルフは深く頷いた。

「右翼はキール、左翼はニキ殿、ハモン殿には北方騎士団の全体の指揮をお願いしたい」

「承知致しました」

3人とも与えられた己の役割に異存はなかった。

……最後に添えられたラルフの台詞を聞くまでは。

「……ただし、戦闘開始は2日後の夜明けからとする」

「なぜです?」

これにはハモンが異議を唱えた。

ハモンには2日も待つ意味がわからなかった。こちらの役者は揃っているにもかかわらず、相手に余計な時間を与える理由がない。

「このまま双方がまともにぶつかれば互いに死力を尽くす激戦になる。犠牲を最小限に抑えるためにも、多少の撹乱は必要であろう?」

「自分の首が狙われているかもしれないという時に他人の心配をしている場合ですか、団長」

「あちらが舐めてかかってくれるならそれを利用しない手はないからな」

「あのう……一体何をなさるつもりですの?私、嫌な予感しかしないのですが……」

「3人とも耳を貸してくれ」

ラルフは耳を寄せてくる3人に作戦の仔細を語った。

全てを語り終えるとニコニコと良い笑顔で微笑むラルフとは対照的に、3人はげんなりとした様子になった。

とんでもない片棒を担がされたと嘆くハモン。
聞かなければ良かった後悔するニキ。
ひたすら頭を掻きむしるキール。

その落ち込み方も三者三様であった。

「それではよろしくな、キール」

「俺がやるんですか!?」

突然、実行役を指名されたキールは嫌だと叫んだ。

「他に適任者がおらん。ハモン殿の人間性はマガンダもよく知るところだし、女性のニキ殿では誰もが無理だと考えるだろう」

「こういう役割は俺よりグレイの方が得意ですけど……」

「団長命令だ。キール、おぬしがやれ」

ラルフが容赦なく命令を下すとキールは頭を抱え悲嘆に暮れた。

「あーあ…。あとで貴方の婚約者殿にいびられるのは俺なんですよ?」

「マリナラ殿には、キールを責めぬよう言っておこう」

「そこんとこ、頼みますよ?絶対ですからね!!」

キールはラルフに念押しすると作戦への加担を渋々了承した。

こんなことならレジランカで留守番でもしていれば良かったと我先にと馬に飛び乗ったことを早くも後悔していた。