捨てられ聖女サアラは第二の人生を謳歌する~幼女になってしまった私がチートな薬師になるまで~

 サアラが使うことを許されたのは使用人の居住区だ。多くの使用人が屋敷を去った今、空き部屋はたくさんあるでしょうと義母は嬉しそうに語った。

「家に置いてもらえるだけ感謝なさい。本当なら顔も見たくないのに、旦那様がこれにも利用価値があると言うから……」

 エレーヌは忌々しそうに毒を吐き続けた。
 昨日まで柔らかなベッドに歴史ある調度品に囲まれていたサアラだが、その全てを取り上げられ、白い壁にベッドと引き出しのついた収納が置かれた簡素な部屋にいる。
 夜は硬いベッドに身を寄せて眠り、朝になれば小さな身体にも容赦なく仕事を与えられる。メイドのように掃除を言いつけられ、義母やクリスが購入するたくさんの荷物を運ばされた。
 キッチンを手伝い食事の支度。皿を片付けると屋敷中の掃除に走らされ、使用人として主人の支度を手伝う。クリスはお古なんて嫌だと言いながらもサアラの服を着て磨かれた靴を履く。
 休む間もなく洗濯物を片付けると庭の草むしりもサアラの仕事だ。お気に入りだったワンピースは土塗れになり、洗う度にくたびれていく。
 雑草をまとめた籠を手に庭を歩いていると、二階の窓からクリスが顔を出す。

「あははっ! みっともないかっこ!」

「クリス、そんなにかおを出すとあぶないわ」

 指を差して笑うクリスはもっとよく見てやろうと窓枠に身体を乗り上げた。

「なによ。見られたくないからっていいわけしちゃって。こんなの平気なんだから」

 窓枠を掴んでいた手が滑り、クリスは頭から転落しようとしていた。

「クリス!」

 サアラの手から籠が落ちる。このままでは地面に叩きつけられて怪我をするだろう。サアラはとっさに手を伸ばした。

(クリスを助けて!)

 強い願いが形となり、サアラの周囲で風が踊る。ぶわりと巻き上がる風はクリスを包み、そっと地面に下ろしてくれた。

「クリス! よかった……」

 クリスはショックで気を失っているが怪我はないようだ。

「お前、その力はなんだ」

 背後から聞こえた呟きに振り返る。そこには呆然と立ち尽くす父の姿があり、信じられないという顔でこちらを見下ろしている。話しかけられたのも、視界に入れてもらえたのも随分と久しぶりだ。唖然としていた瞳は次第に険しさを帯びていく。