ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました

 警戒して彼を見る。

 これまでのところ、困る頼み事しかされた覚えがない。

「無理です!」

 慌てて耳をふさぎ、彼に背を向けた。

 話を聞いたら断れなくなる。急いで荷物をまとめて帰らなきゃ。

「君の弟の授業料に生活費、奨学金だけでは無理だろう。君がどんなにがんばっても足りないはずだ。その資金を俺が出す」

 思わず立ち止まって、振り返った。

 なぜそれを。

 彼の言う通り、私の悩みの種であるけれど、まさか優斗がそんな話までしていたなんて。

「おしゃべり」

 思わず口からこぼれた。

 優斗め、どうしてそこまで言うのよ。

「俺が聞き出したんだ。彼は君の心配ばかりしていたよ。姉さんに心配かけたくないから迷っているってね」

 迷う?

「なにをですか?」

「医学部はあきらめようかってね」

「そんな……」

「君は弟を思い、弟は君を思う。そして俺は、そんな君たちを応援したい」

 彼はやわらかく微笑んだ。「正直な気持ちだよ」と。

 慎一郎さん……。