「なんでもってお前、変なこと頼んでないだろうな」

「は? お前じゃあるまいし」

 八代はクスッと笑って肩をすくめる。

 この男はいいやつだが女にはちょっとだらしない。つい先日も若い看護師と何事かやらかして婦長に説教されていた。

「朝井に限ってそれはないか」

 当然だ。せっかく見つけた憩いの場所をくだらない理由で手放すわけにはいかない。

「しかし意外だな。人嫌いなお前のことだから、すぐに音を上げると思ったのに」

 俺もそう思っていた。期待していなかったし、休みを利用してすぐに新しい住まいを見つけるつもりでいたが。

「ひとり、気が利く女性スタッフがいるんだ」

 年齢は二十代後半、身長は一六〇センチとちょっと、痩せて見えるがつくところにはついている。足首が細くて綺麗な脚をした美人だ。

 ネームプレートには夕月とあったが、あれは本名なのか?

「へぇ、どんなふうに?」

「彼女は驚くほど俺に関心がない」

 自分で言っておいて思わず笑った。