ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました

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 吹き抜ける風は冷たいが気持ちいい。

 事故防止のために高い柵が張り巡らされ、ぐるりと高層ビルに囲まれてはいるが、空を見上げれば晴れ晴れとするし、見下ろせば手入れのされた中庭の緑が見える。

 ここ青扇記念総合病院の屋上は、院内における唯一のオアシスだ。

 少なくとも俺にとっては。

 オペの後は必ずここに来て外の風にあたり、このときばかりはミルクと砂糖をたっぷりと入れた紙コップのコーヒーを飲む。

「お疲れ」

 振り向くと親友で麻酔科医の八代がいた。

「お疲れさん」

 十時間に及ぶオペが終わった。体力には自信があるがさすがに疲れる。それはチームの一員である彼も同じだ。

 お互いの拳を合わせ健闘を讃え合う。

「その歳で執刀医ができるんだ。たいしたもんだよ」

「やらせてくれる院長のおかげさ。普通はよくて第一助手だし」

 アメリカに渡った理由はそれだ。とにかく数多くの執刀経験を積みたかった。