ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました

 父が本当に浮気をしていたかどうか私は知らない。とにかく絶え間ない父の女性の影に振り回され、母は精神的に疲れ耐えられなくなった。

 結局私が中学生のときに、両親は離婚した。

 その際父から養育費は払うという申し出があったのに、母は受け取らないと突っぱねたらしい。母の意地だったのだろう。

 きっと母は一刻も早く忘れたかったのだ。父や辛い経験を。

『パトロンの女性たちが払ったお金なんて、一円も受け取りたくないもの』

 あるときそんなふうに母がポツリと言っていた。

 スーパーのパート従業員や小料理屋の店員として遅くまで働いてでも、父には二度と頼りたくなかったんだと思う。

『桜子。モテる男は苦労するから絶対にやめた方がいいわよ』というのは母の口癖だった。

 その母も去年病気で亡くなったから、モテる男と交際してはいけないというのは母の遺言のようなものである。

 父は私や弟にとって優しくていい父だったけれど、父と過ごした楽しかった思い出は、母の涙と一緒に流れてしまった。