最初のいっぱいが飲み終わったとき「なにかあった?」と彼が聞いてきた。
「帰ってきたとき、今にも泣きそうな顔をしてたから」
えっ?
私、そんな顔をしているつもりはなかったのに。
涙が込み上げてきそうになる。
「君は我慢しすぎ。泣きたかったら泣いたらいいんだ」
「慎一郎さん……」
「もう少し、わがままを言ってほしい」
「ええ? 無理してるでしょ」
「無理なんかしてない。桜子こそ無理してるだろ?」
嘘だ。慎一郎さんは私がわがままなんて言ったら、フイッと逃げてしまうくせに。
「さあ言ってみて」
「じゃあ--」
肩を抱かれて思った。
先輩に抱きつかれたときの嫌悪感が、男性不信となって心に染みついてしまったらどうしようと不安だったけれど、彼の手の力強さは少しも嫌じゃない。
むしろもっと強く抱いてほしいと思う。だから。
気づくと言っていた。
「抱いてくれますか?」
彼はフッと笑う。
「ああ。もちろん喜んで」
強く抱きしめてほしかった。
慎一郎さんの温もりに包まれて、私は大丈夫だと安心したかった。
でも、抱くは抱くでもそういう意味じゃなかったのに。
私の手からワイングラスを取り上げられた彼は、そのまま私を横たえるようにしながら、唇を重ねてきた。



