ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました

 飛び出すように廊下に出るとき、後ろから先輩の声が追いかけてきた。

「桜子。なぁ、お前俺のこと好きだっただろ? 待ってくれよ」

 インカムのボタンに手をかけたまま、廊下を走り、エレベーターのボタンを押し続け防犯カメラを見る。

 落ち着け私。先輩は追いかけてはこない。

 これ以上なにかあれば警備員が気づいてくれる。だから大丈夫。



 着替えのために更衣室に入り、その場にへたり込んだ。

 恐怖で足が震えている。

 信じられない。あの真面目な先輩が。

 ほかの男の先輩とは違ってしつこく飲み会に誘ってもこなかったし、奥手だったはずなのに。実は違ったの? 私の人を見る目がなかったのかな。

 山本先輩のような女性に弱気な男性と結婚すれば、きっと安心して落ち着いた結婚生活が送れるのだろうと思っていたのに。

『お前俺のこと好きだっただろ?』

 違う。確かに理想的とは思っていたが、恋心を抱いていたわけじゃない。

 あんなふうに思っていたなんて。