ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました

 それに、結婚式のときは夕月さんと呼んでいたはずだ。学生時代ならいざ知らず、既婚者にそう呼ばれるのは抵抗がある。

「いえ、まだ事務作業があるので。すみません」

 嫌な予感しかしない。

 出口と私の間に先輩がいる。立ち塞がれたら厄介だ。まさか女性に無理を言うような人ではないと思うが。

「俺、離婚しようと思うんだ」

 え? と、驚きはしたが、なんと言ったらいいものか迷う。ほんのひと月前に結婚したばかりなのに。

「そう、ですか」

「騙されたんだ。子供ができたと言われて。でも実際は妊娠なんかしていなくて。あいつとは絶対に別れる。だから--」

 いきなり先輩が抱きついてきた。

「や、やめてください!」

 とっさに突き飛ばしながら逃げ道を確保する。

「逃げないでくれよ。俺はずっと君が好きだったんだ。あの頃バイトばっかしてたもんな金に困ってるんだろ? なんだったら一回だけでいいよ。俺さ、金ならあるんだ」

「な、なに言ってるんですか。とにかく失礼します」