八代は何事かと様子を見守るようにして立っていたからちょうどいい。
「麻酔科医の八代。俺の親友だ」
「初めまして。実は昨日コルヌイエのレストランに行ったんですよ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
にっこりと微笑んだ桜子は、両手を交差させて深々とお辞儀をする。
「桜子、礼なんかいいんだよ。今はプライベートだろ」
彼女は困ったように、眉尻を下げる。
「いいじゃないか。また行きますからね」
「八代、言っても声をかけるなよ。桜子、こいつは女ったらしだから気をつけろ」
ふふっと楽しそうに笑う彼女とエレベーターに乗ると、抱きしめたい衝動に駆られる。八代もいるしここは病院だからそれはできないが、代わりに腰を抱く手に力を入れた。
この感情はいったいなんなんだ。
バレンタインの予定を聞かれただけで彼女に冷たくして、ついさっきまで突き放そうとしていたくせに。
我ながら勝手なもんだと、自分に呆れて苦笑する。



