「我々の前には、まだどうしようもなく強大な敵がいる。

 マスメディアってヤツだ。

 君が死んだ後、小さな事件はニュースになって報道され、本当の君をねじ曲げられながら世界に広がっていく。

 マスメディアに映る評論家の言説、

 近所のおばさん達の井戸端会議の会話、

 インターネットの掲示板、

 あらゆるメディアに、君の存在は残り続ける。

 さて、こいつらを完璧に消去するにはどうすればいいんだろうね?

 分かった風な言葉で君の死を記号化する評論家達を、

 絶望的な君の死を娯楽化するおばさん達を、

 君の決意の自殺を叩いて相対的な充足感を得ようとするネットの住人達を、

 全員消し去って君が『完璧な自殺』を遂げるには?

 核兵器か?

 あるいは細菌兵器か?」

「もうやめて!」

 このサディストめ、と。

 毒づく言葉すら口にできずに、私は地面に膝をついて、頭を垂れた。

 瞳から、とめどなく涙が溢れてくる。

 地面に接する身体の部位が、ただ、「冷たい」。

 精一杯抵抗するように、涙で霞む瞳で近宮先輩を見上げたが、あくまで近宮先輩の表情は涼やかだった。

 私の抗いなどは、全て近宮先輩の想定の範疇なのだ。

 私はそう理解する。

 私の中で、何かがボキリと音を立てて折れた。

 ◇◇◇

 それが、私の世界への反抗がバッドエンドで終幕した日。

 以後、絶望を気取った希望を、私は振りかざしたことがない。