私の前の家、つまりは前のお父さんがいる酒蔵に向かっていると知って、少なからず動揺した。

「お父さんにお別れの言葉でも言ってこいっていうんですか?」

「バカ言うなよ。死ぬ人間が生者にお別れなんか言ってどうする。

 君のお父さんはむしろ『完璧な自殺』にあたっての障害だ。

 君が死んでも、お父さんはこの世界で君の存在を覚え続けているだろうからね。

 それでは、君は完璧にこの世界から消えたことにならない」

「じゃあ、どうするんですか?」

「まあ、一番簡単なのは、殺してしまうことだろうね」

「バカな」

「ああ、今日はそこまでやらないよ。

 敵情視察に留める。

 さて、君のお父さんはどれだけ君を覚えているのかってね」