「シャトー・ディケムの1995年があるんだ」

「そんなバカな。中学生に手に入るワインじゃないです」

「お、さすがに話が早いな」

「世界三大ワインの一つですよ」

「ああ、だが残念なことに本当だ。

 私は、美人で頭が良い上に、絶望的なことに家がお金持ちなんだ」

「そういうこと、自分で言うと、嫌われますよ」

「何、これから死ぬ予定の君にはあんまり関係の無いことだ。

 で、君の契約の履行だが、君が『完璧な自殺』を完遂できると確信した暁には、死ぬ前に私とこのシャトー・ディケムの1995年を一緒に飲んで欲しい」

「それだけ? なんか、むしろ私が得をしている条件に思えますけど?」

「いや、それだけでいいんだ。私は味が分かる人間とあのワインを飲みたいんだ。

 今、私の目的はそれだけだと言っていい。

 君は、お酒の味が分かる人間だろう?」

 そう言って、握手を求めるように私に向かって手を差しのばしてくる。