夜を越える熱

『いるよ』


そう藤崎さんが言ったのは、その後私が聞いたからだ。


「奥様や恋人がいらっしゃるかもしれないのに…」

と。






「いるよ。……妻が」


試すように私を見る瞳。後ろめたさなど微塵も感じさせない。むしろこちらがたじろぐほどだ。


固まった私を見て藤崎さんはおかしそうに笑った。


「……と答えたらどうする?やめておく?」


「……冗談ですか?本当ですか…?」



思考がぐらぐらしている。運ばれてくる目の前の豪華な料理にも手がつけられない。


「どうする?先に聞いておく」


答えを求められて、目を合わせられなくなった。白いテーブルに視線が落ちてしまう。


「……やめた方がいいと思います」


そう答えた。





沈黙に顔を上げると、まだこちらを見ている藤崎さんと目が合った。