知らない景色の中を車は走り抜けていく。


車通りも少ない道路。景色があっという間に流れる。

慣れない車内の空気。


恭佑のことを考えるより前に、電話が切れてからすぐに藍香の目の前に車が停まった。


車に詳しくない藍香にも恐らく高級車なのだろうなと分かる。こんな車に乗ったこともなく、緊張しながら助手席に乗った。



「…お願いします」

乗り込んだ藍香を運転席からちらりと見て藤崎はおかしそうに笑う。

「めかし込んで来たね」

曖昧に返事をしたところで車は走り出した。





会話もなく、ちらりと後部座席を振り返る。そこには書類の入っているだろうビジネスバッグがいくつかと、着替えなのだろうか。スーツがハンガーごとかかっているのが見えた。

「忙しくてね。後ろは荷物置きのようになってるよ。何があってもいいようにね」


藍香の視線を読み取ったように運転しながら藤崎は言う。


「お忙しいんですね」

「今日は早く切り上げた。忙しいのは俺だけじゃない。俺に振り回される面々も大変なんだよ」