突然鳴る携帯電話の音に我に返る。


手に握りしめていた携帯のディスプレイの文字。


─今井恭佑。


咄嗟に出た応答ボタンを押し、耳に当てた電話。


『お疲れ。…今、どこ?』


「お疲れ様です。今、ちょっと出先で」


『出先?俺、今仕事終わって帰るところ。飯食べに行かないかと思って』


昼間、部長室に行った帰りにこちらに気づいて見ていた恭佑を思い出す。


「ごめんなさい、今日はちょっと」


『分かった。帰り、待っててもいい?』


「え?」

どきりとする。


『会いたい。少しでいいから』


「………」


『帰ったら連絡して』


「……今井さん……」


『何?……恭佑でいいよ』


「……恭佑……昨日のこと……」


昨日のことはどういうつもりだったのか、そう聞こうと思いながら言葉に詰まる。


黙っている藍香に、先に恭佑が言葉を続けた。


『昨日のこと?……遊びじゃないよ。藍香が後悔しないように行動してるのと同じだ。俺も後悔したくない。……連絡待ってる』



──電話は切れた。