「……そう言われると思わなかったか?『以上』で報告は終わり?……いや、そうだ。河野さん。きみの目的はそもそも仕事じゃなかったね」


藍香は黙って藤崎を見返した。


「……今のきみは仕事では使えない。本気でやろうという姿勢がない。でも別の目的があって俺のところへ何度も来る点に関しては、ある意味度胸があると思うよ」


藤崎は笑っている。


「勿体ないね。その度胸、仕事で使えば何かになるのに」


「………使えなくてがっかりしましたか?」



なぜだろう。この、厳しそうに見えて、けれど同時に優しくも見えるこの人に気に入られたいと思ってしまうのは。誰もがそうなのだろうか。課長には気に入られたいなどとは思わないのに、藤崎にはそう思うのは、この人の上に立つ者の資質のせいだろうか。



それにまだこの人のことが全く見えてこない。

それを知りたいと思ってしまう。





「自分のために動く優秀な部下は何人でも欲しいよ。俺の優秀な部下には『出来ませんでした。以上』で終わらせる者はいない。でも、河野さんは『優秀な部下』になりたいわけじゃないみたいだね」