「忘れた」

にやにやしながら答えると宮地の表情はさらに固くなった。

「今井の表情見たか。あいつ、今部外秘の大事なプロジェクト任されてるはずだぞ。急に呼び出して来れる状況じゃなかったんじゃないか?それが、あんな顔して飛んできた」
 


「絶対来るよってあの子に言ってたらさ、本当に来たんだよね」

「吉田、お前分かっててやってるよな?……今井のあの様子見て、俺は前の、……あの頃の今井を思い出すよ」


「ふうん。俺もそうかも。あの子、河野さんだっけ。部長級の上司の男が気になってるって最初言ってた。そんで面白くなったから今井を呼んでみたってとこ」

悪びれない吉田に、ひどくいらついたように宮地は問う。


「上司って。部長級なら今井の上司でもあるんじゃないのか。お前、それ分かっててやってるな?」


「あのさあ宮地。自分の都合の良い時には俺を利用しといて、その言い方?」

言葉以上に凄みを帯びた吉田の雰囲気に宮地は目を逸らした。


「……俺は心配なんだよ。あいつ、あの件から這い上がってきて、仕事でも着実に認められつつあるんだ。……ごちゃごちゃになりそうな女に今井をけしかけて、足引っ張ってやるなよ…」


「人聞きの悪いこと言うねえ」

宮地は首を振った。


「何となく似てるからな、あの子。……取られた彼女にな」