「呼んだって、今ですか?多分今井さん、まだ仕事中ですよ」

今井のいる部署が夜遅くまで仕事をしている部署なのは藍香も知っている。

「待ってりゃ来るよ。デザートでも食べとこう」




そう言って吉田はデザートを取りに行ってしまった。







………今井が息を切らせて店内に入って来た頃。

「あ、来た」

吉田が手を振る。


「……おま、………」

急いでやって来たらしい今井はスーツにビジネスリュックで職場からそのまま来たという雰囲気だ。吉田に何かを言いかけて、吉田と共にテーブルにケーキを並べている藍香を見て黙り込んだ。


「ほら、来た。河野さんが泣いてお前に会いたがってるよって言ったらさ」

吉田は笑っている。


─そんな事言ったの?

仕事を途中で切り上げて来たのだろう今井。まさか吉田がそんな事を伝えたとは思わなかった。


「…なんで吉田から連絡が入るのか意味が分かんねーと思ったけどな」


突然来た今井を見て、向こうの席の美桜と宮地もやって来た。

「あれ、お前どうした?」

「いや……吉田に騙された」

脱力した様子で空いている椅子に座って顔を覆う。

「ケーキ食べるか?」

吉田は笑っているが藍香は気が気ではない。



「あの、…今井さんごめんなさい」

吉田が宮地たちと何か会話をしている間に小さな声で言うと、今井は覆っていた手からちらりと顔を上げる。

「……なんで泣いてるのかと思って急いで来た」


藍香にしか聞こえない声。