面白い話はない、と答えると何でもいいから暇つぶしに話せ、と吉田に言われた。

万が一同じ職場の人ではないかと思い、職業を聞いたところ、『教師』だと吉田は答えた。

「何?文句ある?本当に美術の教師だけど」

「いえ、ありません」


思わず笑ってしまう。たぶん、吉田はいつも教師だと言うと人から驚かれるのだろう。強烈な個性と雰囲気は『先生』らしい頭の固いイメージとはかけ離れている。


職場が違うのなら、と藍香は思わず藤崎の話をした。…本当は今井に聞いてほしかったが、今日言葉にならなかったのだ。


「ふーん。今になって不安になったって?一体何が?」

恋愛に興味のない吉田にこんな話をしても、と思ったものの、案外面白そうに聞いてくれた。


「もし私と噂になったら、それを利用しようとする人もいるとか。私の好意は伝わったし、個人的なものなら歓迎と言われたけど…」


「つまり秘密の関係になるよって言われたわけだ。いいじゃない。別に。そんなおおっぴらにしたい?」

「いえ、…それは全然ないですけど」

「秘密でいいよね。その方が楽しくない?それくらいの役職なら、当然変な噂は困るしね。たぶん、あんたその人のことまだそんなに好きじゃないんじゃない。だから不安になるわけよ」

何も言えなかった。きっとその通りなのだと思う。


「惹かれるんならそのまま突き進めば。嫌になったらやめればいいし。でも、あんたまだ信頼がないね。試されてる」

「え?」

「報告持ってこいって言われたんだよね?それ、ちゃんと自分が言ったとおりに出来るか。つまり課長にもの申してまで約束通り出来るかどうか試されてるよね」


吉田の言うことが正しいかどうか分からない。


でも、もしかするとそうなのかもしれない。