「正直に言うなら、河野さん。きみのことは咎めないよ」


─どういう事……?誰かに言われてって…?


「私の意思ですが……何の事ですか?」


瞳を見下ろされながら混乱する頭でそう答えた。


数秒、そのままの状態だった。



藤崎の長い指先はするりと藍香の輪郭に触れたかと思うと離れていった。


「そうか」


言いながら背を向けてゆっくりとまた自席に戻っていく。


「あの……どういう事でしょうか」


藍香はもう一度訊ねた。



「俺はね、味方も多いけれど敵も多いんだよ。つまり、俺を引きずり下ろしたい奴がいるわけだ」


これは誰にでも話す内容ではないと思われた。事実、藤崎はいつもの話し方と変わっている。


──引きずり下ろしたい……


必死で頭を巡らす藍香。

「意味が分かるか?役職である俺が、一般職員の歳の離れた女性ともしも噂になったらどうだと思う?それを醜聞として利用したい人間もいるってことだ」


藤崎は笑いながら藍香を見ている。


「河野さん。それがきみの意思なら歓迎だよ。でも今の言葉が偽りで、もし誰かの差し金で俺を陥れようとするものなら。本意ではないが、容赦はしかねるんだ」