椅子から立ち上がった藤崎が目の前に座る藍香のすぐそばまでやって来る。


カツ、カツというゆっくりとした足音に緊張感が爆発しそうになりながら俯いた。


黒いスーツの足元。今井のとはまた違う、重厚感のある歩き方。


その靴先を目にした時、藍香の顎先に手がかかった。


指先で上を向かされ、藤崎と目が合う。


「……それは自分の意思か?それとも誰かに言われて来たのか?」


──誰かに言われて……?


冷たい聡明な瞳に見下される。


頭が混乱する。