藤崎の瞳に見られると、心臓がうるさく鳴ってひどく緊張する。


「……実は報告出来る事はまだありません」

正直に答えた。


藤崎はそれを聞くと、息をついて椅子の背もたれに寄りかかった。

「……そうか。それで?じゃあここに来た理由は?」


─怒らせた?期待外れだと思われた?…どうしよう。


藍香は息を吸う。


「いえ、あの……部長のお顔が見たくて…」


顔を合わせないようにしながら思い切ってそう言葉にした。藤崎を怒らせたりがっかりさせたのなら、どうせなら本音を言ってしまおうと思った。


返事はない。

心臓がばくばくと大きく鳴る。


恐る恐る目を上げると、藍香の全身を捉えるように見つめる瞳とぶつかった。ただ藍香の言葉の真意を探るようにこちらを見ている。


沈黙が重くのしかかる。


耐えられない、もう言い逃れが出来ないと思った。



「……冗談ではありません」


必死に見返した。もうどうにでもなれと思った。



──これで、藤崎さんにもう来るなと言われたらそれまで。もともと失恋していた状態に戻るだけ………失うものはない、はずだから。