夜を越える熱

少しだけ─と、怖いもの見たさで覗いた部屋の中。


デスクにいた藤崎の瞳がこちらを見据えていて、思いきり目が合ってしまった。


─……しまった。

　
藤崎の鋭い瞳に、ノックもせず急に中を覗き込んでしまったことを激しく後悔する。


「あ、……急に申し訳ありません」


焦りながら謝ると、藤崎の瞳はふと緩んだ。


「ああ、きみか。……報告かな？」


急に優しそうに見えた表情に戸惑ってしまう。昨日見たときよりも穏やかな顔つきだ。


「あ、いえ……」

「どうぞ。入れよ」

─報告するものはないのに、どうしよう。



そう考えながらも藤崎の表情に引き寄せられるように部屋の入り口に立った。


「どうした？そこに座ればいい」

立ったままの藍香はそう促されて藤崎のいるデスクの真向かいの来客用の椅子に座ってしまった。

「報告だったね。聞こうか」

緊張している藍香を見て藤崎は少し笑った。

普段は精悍で知的な顔つきだが、笑うと少しだけ温かみが出る。その差異にどきりとしてしまう。