夜を越える熱

女性に声をかけられて、大丈夫です、と答えた後に藍香は部長室の前を通った。


……わざとではない、通りかかっただけ。



そう自分に言い聞かせながら、部長室の扉が開いているのを見つけてしまった。



昨日来たときは閉まっていた扉。


人の出入りも多いのだろう。部長が在室していて取り込み中でなければ、周りに分かりやすいようにこのように開けていることもあるようだ。


思わず通りすがりに中をちらりと覗く。


が、パーテーションで目隠しがされており、そのままでは中は見えないようになっていた。


──普段藤崎さんはこの中でどんな風に仕事をしているんだろう。


昨日はあまり観察は出来なかったが、奥に応接室のようなところもあったように思う。


課長の上の部長というのは藍香にとっては雲の上の存在のようだ。部長は各課の課長たちをも束ねる存在であり、通常一般職員が普段接触する機会はない。


その中でも選抜された職員で構成されている企画事業部などは部長室の側にあることもあり、わりと近しい存在なのだろう。

そんな部長に目をかけられている今井は、出来る職員として信頼を得ているのだと思う。『部長の期待に応えられるのか』と今井に問われたことを思い出す。それは普段藤崎と仕事をしている今井だからこそ言えた言葉なのだ。


──仕事で期待に応えるなんて。私にはそんな自信はないな……。



そう思ったが、好奇心に負けて部屋の入り口に静かに立つ。ちらりとパーテーションの向こうを覗いた。