「今の、あれ誰だ?」

カウンターの向こうの通路に昨夜見た長い髪の姿が一瞬見えた。

昨夜会った時とは違う仕事用のブラウスとスカート。けれどすぐに分かった。




企画事業部の職員に声をかけられ、その姿が消えていくのを事務室内からじっと見ていると、恭佑の見ている方を見ながら同僚の岡本が何かに気がついたように言う。



「あの子、こないだの集まりにいなかったか?…いたよな?お前が泣かせて帰らせたんじゃなかったっけ」

「まさか。俺が泣かせる理由がないだろ」

「ふうん。じゃあなんで泣いてたんだよ?」

「……失恋したんだってさ。ずっと好きだった男がいたとか」


へええ、と岡本は興味深そうに恭佑を見て冗談めかして笑った。


「一途だね。けっこう可愛かったよな?もしかして惚れたか?失恋中ならチャンスだな」


「……いや、もう好きになりかかってる相手がいるらしい」


「へえ。けど今、あの子お前の方見てただろ」


恭佑は誰もいなくなった通路から、さっきまでやりかけていた仕事に視線を戻した。


「………さあな」