………そんな事までは藍香には言えなかったが、部長のことを知っているかと聞かれれば
他の職員や、もしかすると課長よりも恭佑はよく知っているかもしれなかった。



「今井さん、それなら…良かったら相談に乗ってもらえませんか?…私、今度は後悔したくない。前の恋では何も出来なかったから。………お願い」


必死なのだろう。少し潤んだように見える瞳で頼まれて一瞬思考が固まった。



「だめだ。……藤崎部長は上司だよ。仕事以外のことに俺は関わらない」


藍香の視線を振り切るようにそう答えた。

藍香は恭佑が良い返事をしてくれるだろうと思っていたようで、一瞬黙った後返事が聞こえた。


「…そっか、そうだよね。…今井さんに迷惑がかかっちゃいけないし。ごめんなさい、分かりました」



「…分かりましたって。じゃあどうするつもり?」

「一人で何とかする」

恭佑は絶句した。何も出来なくて泣いていたのに、『一人で何とかする』とは。


「私には失うものはないから。恥もプライドも。片想いの恋も失ってる。仕事だって。ミスした私が悪かったって謝れば丸く納まるならそうするだけ。……そんな私だから、今、希望に思えるものが少しでもあるのなら何とかしたいの」

決意のようなものが込められた瞳が恭佑に向けられる。


「今の私の話は忘れてくれていいからね。……でも、今井さんにもう一度会えて良かった」