ちょうど出かけようとしたら私のお父様、海神色人(わだつみしきと)が声をかけてきた。

「緋女、どこかいくのかい?」

「お父様、今から教会へ」

「そうか。行ってこいといいたいのは山々なんだが…ちょっとチトセくんに用事があってな。少し借りていいかい」

お父様が申し訳なさそうにいう。

「旦那様。お急ぎの用事ですか?」

「あぁ。ちょっといいかい?」

「……かしこまりました。すみません、透李、ねるま。出かけるのは昼食の後にしましょう。緋女様も午前中は少しゆっくりなさって下さい。また昼食時に部屋に伺います」

チトセはそういうと、透李に私を部屋まで送るようにいいつけ、お父様について行った。

透李に部屋まで着いてきて貰うと意外にも透李は部屋のドアを開けてくれる。

「ありがとう」

「ふん、かまわん。これくらい造作もないこと。貴様ひとりでは何も出来ないであろう。冷徹の玄武(れいてつのげんぶ)が帰ってくるまで我が共にいてやっても良いが?」

そういって、透李は私のベッドに腰かける。チトセが帰ってくるまで世話を焼いてくれるということだろうか。有難いが正直邪魔だ。今からいかにも女子らしいことをする。彼には王子様時の私の方が馴染みがあるだろうし、見られるのは正直恥ずかしい。

「大丈夫だ。下がれ」

「そうか、つまらんやつだ」

透李はそういって、部屋を出ていく。つまらん…って。私のベッドにも簡単に腰かけたし…そうかただの暇つぶしか。そうだよな。あいつに使用人らしさを求める方が馬鹿らしい。私はため息を吐いて、化粧台の隣に置いてある小さな机の引き出しからアロマとジェルを取り出した。
ちょうどお母様の誕生日が迫っていたし、今日は自分の部屋の分を作って練習だ。