(そうだ。失礼な態度を取る彼から、シュエットを助けたら、話すきっかけになるんじゃないか?)

 ようやく機会が巡ってきた。と、思ったのもつかの間のこと。

 次いで聞こえてきたシュエットの声に、エリオットは調薬用の大釜が頭上に落ちてきたような衝撃を受けた。

「ごめんなさい。私、今からエリオット先輩のところへ行くの。いつも物言いたげに見てくるから、もうやめてって抗議しに」

 その後は、どうしたのか覚えていない。気付けば、王宮の自室のベッドに寝ていた。

 朝起きて、学校へ行って、ご飯を食べて、寝る。何度か繰り返したら卒業の日はあっという間にやってきて、エリオットはショックから立ち直れないまま、魔導書院の院長に就任した。

 友だちなんて。

(もう、こりごりだ)

 友だちなんて、いらない。恋人なんて、論外。だから当然、結婚相手なんて興味ない。

「そう、思っていたのに。なんで……」

 愕然としながら見上げていると、彼女の唇が動いた。

「エリオット先輩……?」

 ああ、どうして──、

(嫌われていることを知っているのに……彼女に名前を呼ばれることが、こんなにも嬉しい)