ちょっと裕福な一般人として生きてきたシュエットには、理解できない決まりである。

(結婚したい人が、結婚したい時に、結婚すれば良いのよ)

 母には悪いが、シュエットに結婚の予定はない。というか、結婚する気がない。

 いつかは、とは思っているが、恋愛結婚を夢見る彼女には、まだ恋人すらいないのだ。

「結婚……結婚、ねぇ……」

 ボソボソと呟きながら、寝室の窓を開ける。

 心地よい春の宵の風が部屋の中へ吹いてきて、シュエットの前髪を揺らした。

 きつく結い上げた髪をほどくと、長い髪がふわりと風になびく。緩やかに波打つ髪を指で梳きながら、シュエットは物憂げにため息を吐いた。