会場に来るまでは順調だった。

 あんなにも大切にしてくれる人は他にいないと、安心しきっていた。

 それなのに今は、この世の誰より彼に会いたくないと思っている。

 だって、どんな顔をしたら良いのだろう。

 片足を斜め後ろに引いて、もう片方の足のひざを曲げて、あいさつをすれば良いのだろうか。

(貴族の、お嬢様みたいに?)

 何を馬鹿な、と笑いたくなった。

(私は優等生ですから、できなくもないですけど)

 お望みならば、喜んでして差し上げよう。

(公爵様のお望みならば、ね……)

 本当に、馬鹿げている。

 どうして、もっと早くに気づけなかったのだろう。