「もしかして、変装していたとか?」

 公爵様ともなれば、市井でお忍びの格好をするものだ。

 ましてや、母譲りの浅黒い肌と父譲りの鮮やかな髪色は目立って仕方がないだろう。

 少なくとも、シュエットの情報源である恋愛小説ではそういうものだった。

「ねぇ、エリオット。あの人が公爵様なの?」

「いや、どうだろう。遠目でよくわからないが」

 おかしなこともあるものだ。

 エリオットの目が都合よく悪くなっている。

(もしかして、苦手なのかしら? わざと見ないようにしているみたい。公爵様なら上司だし、いろいろあるのかもしれないわね)

 公爵様が相手では、やりづらいことが多々あるだろう。

 そんなものかと、シュエットは勝手に納得しておいた。