こんな時、恋愛小説を読んでいなければ良かったと思う。

 だって嫌な想像がいくらでもできてしまう。

 例えば──、シュエットに婚約破棄を言い放つエリオット。彼の隣にはお姫様みたいな可憐な女の子が立っていて、シュエットにいじめられたとかなんとか言うのだ。シュエットが事実無根を訴えるも聞き入れられず、哀れシュエットは監獄へ──

「って、ないない。それはない。エリオットが王族とかじゃない限り、それはないから」

 そんなこと、あるわけがない。

 エリオットが王族だなんて、あるわけがないのだ。

『本当に?』

 微かに聞こえた声に耳をふさぐ。

 だってそうしないと、エリオットを本気で諦めないといけなくなるから。