必死に距離を置こうとしているメナートに、しかし令嬢はめげずに突進する勢いで距離を詰めてくる。

『たすけて、院長!』

 そんな視線を受けながら、エリオットは爽やかな笑顔でグッドラックと手を振った。

 あんな攻撃は、受けたくない。勘違いはさせておくに限るのだ。

 メナートがエリオットを呼び寄せるほどの緊急事態とは、令嬢のことだった。

 魔導書院には不似合いな、ピンクのフリフリドレス。一体どこの夜会へ行くのだと突っ込みたくなるゴテゴテしさだ。

 高いヒールの音が歩くたびに響き渡って、静かな書院内に騒音を撒き散らしている。タップダンスでも踊りたいのだろうか。

 顔を背けたくなるくらいの、えげつない香水の匂い。まるで魔導書院にマーキングしているみたいだ。一刻も早く追い出して、風の魔術で空気を一掃したい。