『ああ、かわいいエリオット。いつかわたくしが触れられなくなる日がくるまで……たくさん触らせてちょうだいね』

 そう言って、母は何度もエリオットに触れた。

 優しくて、あたたかくて、大好きだった人。

 なのに、ある日突然、母はエリオットの前から姿を消したのだ。

 行方不明になったわけではない。エリオットの前にだけ、姿を見せなくなった。

「ああ、そうだ……」

 悲しむエリオットに、乳母は言った。『坊っちゃまが一生懸命お勉強して強くなったら、会えるようになりますよ』と。

 今に至るまで、そんな日は訪れなかったが。

「ヴォラティル魔導書院の院長は、魔導書院との契約を維持するために膨大な魔力を必要とする。先代の院長が若くして力を失ったため、おまえは予定よりだいぶ早く後継にならざるを得なかったのじゃ。だが、幼いおまえの魔力では、到底賄えるものではない。足りない分は、周囲から奪われた。そう、おまえの母や父、兄からな」