反射的に、シュエットの口から呆けたような声が漏れる。

『今日中にキスしてあげるから。覚悟してなよ、マイレディ』

 エリオットはシュエットの顎にそっと指を添えて、挑発するように深紅の目で見下ろしてきた。

「今日、中……?」

「ああ、今日中だ。だって、僕たちには時間がないからね」

「時間が、ない……」

「うん。だって、そうだろう? ヴォラティル魔導書院の引っ越しまでに、フクロウカフェをオープンさせる。そう、決めたのだから」

 エリオットに言われて、そこでようやくシュエットは現実に戻った。

 考え事をしていたところに不意打ちにエリオットの声が聞こえてきて、混乱したシュエットは白昼夢をみていたようだ。

(一体、どこから妄想だったのか……)

 とりあえず、エリオットの指はシュエットの顎に添えられていないので、そこは妄想である。

(マイレディ、なんて彼が言うわけないもの)

 困ったものである。ついつい『エリオットが恋人だったら』という妄想が捗って。

 困る。本当に、困る。なんで自分は長女なのかと、恨みたくなるではないか。