ただの魔導書と侮るなかれ。禁書には、自我がある。

 自らの意思で、対象の嫁を選び、術を発動させ、特定の試練をクリアするまで一定距離離れられないようにする──らしい。

(いやいやいや、嫁選びってなに? それくらい、自分で決めなさいよ)

 恋愛結婚推奨派にして恋人いない歴イコール年齢のくせに、シュエットは突っ込んだ。

 ここに彼女をよく知る友人たちが同席していたら、苦笑いを浮かべて言っただろう。「あんたにピッタリな魔術じゃないの」と。

「そして、その証がこれなんだ」

 コトリとカップをテーブルへ置いたエリオットは、そう言って右腕を上げた。

 男性がするには些かかわいらしいデザインのブレスレットが、エリオットの手首で揺れる。シュエットの左腕にあるのと、同じデザインの。