ああ、やってしまった。

 エリオットは窓の外を見上げ、困り果てていた。

「そんなつもりは、なかったのだが」

 齢二十二の若き公爵、エリオット・ピヴェールは、広大なリシュエル王国の王都にある、ヴォラティル魔導書院の院長を務めている。

 新月の夜空のような色をした黒髪は無造作に伸ばされ、あちこち好き勝手に跳ねていた。

 もっさり。そんな言葉がぴったりな頭である。

 決して貧相な体格ではないのに、自信なさげに猫背になっているせいで頼りなげに見える。ただの庶民な彼の部下の方が院長と間違われてしまうのは、そのせいに違いない。