「真琴、かわいいね。世界一、かわいいよ」
奏はさらに距離を縮めてくる。
片方の手は真琴の手首をがっちりと握ったままで、空いている反対の手が伸びてきて、真琴の頬を優しく撫でた。
ただその瞳は真琴の瞳をじっと見つめて離さない。
ソファに押し倒すようになったその体制は、真琴の体に奏の体がぴったりとくっつき、相手の体温と重量が微かに伝わる。
身動きひとつ取れないどころか、視線を逸らすことさえできない緊張感が走った。
――まさかこの完璧超人の弱点がお酒だったなんて! 奏は自制していたのに自分が煽ったのだから何も言い訳ができない。
お互いの鼻先が触れるくらいに近づいた顔は、それでもなお瞳をじっと見つめたままだった。
「真琴だけを愛してる」
吐息がかかる。甘く、擦れた小さな声で愛を囁く。
この男はいつも恥ずかし気もなくそのようなことを言ってくるので、真琴は慣れっこだったのにも関わらず、この状況での愛の告白には緊張と羞恥で頬が紅潮せざるを得なかった。
「……キスしてもいいかな」
頬に触れている奏の手の親指が、真琴の唇をゆっくり優しく撫でる。
真琴はパニック状態で思考が追い付かなくなり、何を思ったのか自分でもわからず、小さく頷いてしまった。それは一種の反射行動だったのかもしれない。
それを確認すると、一層体重がのしかかり、唇には温かいものが触れていた。
数秒経ったのち、唇は離れた。
また相手と視線が合ったが、相変わらず目つきは焦点が定まっていない。
自分の体の中でドクンドクンと激しく脈打つ鼓動を感じる。
真琴がまだ思考停止しているうちに、視界はまた塞がれ、再び唇に何かが触れた。今度はすぐ離れたかと思うとまた塞がれる。啄むようなキスを繰り返す。
嫌いなはずの相手とキスを貪っている――背徳感に近い感情がふつふつと心の底で煮えたぎる。なのに、その温かさと柔らかさは心地よく、体が徐々に興奮を覚えてしまう。
一心不乱の求愛行動に、真琴は奏のことを初めて可愛いと感じた。
いつもの余裕ある薄笑いはそこに存在せず、あの完璧超人が本能のままに唇を求めている。
真琴の体は抵抗力を失い、されるがままに身を委ねていった。
徐々に相手が口づける場所が耳、首筋へと下りて行く。
真琴だってもう子供ではなく大人の女性ということを自覚しているので、この流れは覚悟を決めるしかなかった。
奏の唇が鎖骨のすぐ下あたりまできたとき、ゾクっとしたのも束の間、相手の動きが止まった。
三十秒ほど経っても動きがない。動かなくなった相手を見やると、小さな寝息が聞こえてきた。
「ここまでしておいて……」
がくんと力の抜けた成人男性の体重が重くのしかかる。
真琴はやるせない様子で、ゆっくりと男の体を押しのけてその場を脱出した。
倒れこんだ奏の顔を覗き込むと、本当に眠っていた。
よくよく考えると、奏の寝顔を見るのは初めてだったかもしれない。
見ているだけでドキドキするような、美しい寝顔だった。
どれだけ真琴が近くで見つめていても、奏は身動きせず眠り落ちたままだった。
「私じゃアンタを運べないんだから」
繊細な睫毛を人差し指の背で掬うように撫でながら軽く息を吐く。
それでも自分のせいでこうなってしまったことは自覚しているので、奏の寝室から布団を持ってきて、ソファに横たわる奏にかけた。
テーブルに乱雑に置かれた複数の空き缶を片付ける。
自分も今日は寝る準備をするため、そのままシャワーを浴びに行った。
寝る直前にリビングを覗いてみたが、奏の様子は変わらずだった。
奏はさらに距離を縮めてくる。
片方の手は真琴の手首をがっちりと握ったままで、空いている反対の手が伸びてきて、真琴の頬を優しく撫でた。
ただその瞳は真琴の瞳をじっと見つめて離さない。
ソファに押し倒すようになったその体制は、真琴の体に奏の体がぴったりとくっつき、相手の体温と重量が微かに伝わる。
身動きひとつ取れないどころか、視線を逸らすことさえできない緊張感が走った。
――まさかこの完璧超人の弱点がお酒だったなんて! 奏は自制していたのに自分が煽ったのだから何も言い訳ができない。
お互いの鼻先が触れるくらいに近づいた顔は、それでもなお瞳をじっと見つめたままだった。
「真琴だけを愛してる」
吐息がかかる。甘く、擦れた小さな声で愛を囁く。
この男はいつも恥ずかし気もなくそのようなことを言ってくるので、真琴は慣れっこだったのにも関わらず、この状況での愛の告白には緊張と羞恥で頬が紅潮せざるを得なかった。
「……キスしてもいいかな」
頬に触れている奏の手の親指が、真琴の唇をゆっくり優しく撫でる。
真琴はパニック状態で思考が追い付かなくなり、何を思ったのか自分でもわからず、小さく頷いてしまった。それは一種の反射行動だったのかもしれない。
それを確認すると、一層体重がのしかかり、唇には温かいものが触れていた。
数秒経ったのち、唇は離れた。
また相手と視線が合ったが、相変わらず目つきは焦点が定まっていない。
自分の体の中でドクンドクンと激しく脈打つ鼓動を感じる。
真琴がまだ思考停止しているうちに、視界はまた塞がれ、再び唇に何かが触れた。今度はすぐ離れたかと思うとまた塞がれる。啄むようなキスを繰り返す。
嫌いなはずの相手とキスを貪っている――背徳感に近い感情がふつふつと心の底で煮えたぎる。なのに、その温かさと柔らかさは心地よく、体が徐々に興奮を覚えてしまう。
一心不乱の求愛行動に、真琴は奏のことを初めて可愛いと感じた。
いつもの余裕ある薄笑いはそこに存在せず、あの完璧超人が本能のままに唇を求めている。
真琴の体は抵抗力を失い、されるがままに身を委ねていった。
徐々に相手が口づける場所が耳、首筋へと下りて行く。
真琴だってもう子供ではなく大人の女性ということを自覚しているので、この流れは覚悟を決めるしかなかった。
奏の唇が鎖骨のすぐ下あたりまできたとき、ゾクっとしたのも束の間、相手の動きが止まった。
三十秒ほど経っても動きがない。動かなくなった相手を見やると、小さな寝息が聞こえてきた。
「ここまでしておいて……」
がくんと力の抜けた成人男性の体重が重くのしかかる。
真琴はやるせない様子で、ゆっくりと男の体を押しのけてその場を脱出した。
倒れこんだ奏の顔を覗き込むと、本当に眠っていた。
よくよく考えると、奏の寝顔を見るのは初めてだったかもしれない。
見ているだけでドキドキするような、美しい寝顔だった。
どれだけ真琴が近くで見つめていても、奏は身動きせず眠り落ちたままだった。
「私じゃアンタを運べないんだから」
繊細な睫毛を人差し指の背で掬うように撫でながら軽く息を吐く。
それでも自分のせいでこうなってしまったことは自覚しているので、奏の寝室から布団を持ってきて、ソファに横たわる奏にかけた。
テーブルに乱雑に置かれた複数の空き缶を片付ける。
自分も今日は寝る準備をするため、そのままシャワーを浴びに行った。
寝る直前にリビングを覗いてみたが、奏の様子は変わらずだった。
